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サディスト、マゾヒスト、刺激ジャンキー、フリークスに贈る
「おすすめ愛毒本Vol.1」
by Naoko ジャンル 日本の小説
完璧な病室 揚羽蝶が壊れる時/ 小川洋子 (福武文庫)
−正気と異常のボーダーレス、生と死のボーダーレス− 小川さんの著書は全て本が黒ずむまで読み倒しましたが、その中でもお薦めなのが、芥川賞候補作となった『完璧な病室』、デビュー作となった『揚羽蝶が壊れる時』の二篇が収められた単行本です。
『完璧な病室』は、不治の病になり、清潔な病室に同化するように無機質になっていく弟を看病するうちに、異性への愛とも呼べる感情を弟に抱いてしまう姉の物語りです。姉は、神経症をわずらった母との雑然とした暮らしから、生活や日常というものを次第に嫌悪するようになります。清潔で美しくスマートに過ごしていきたいのに、いつも生活というものがつきまとってくる。そんな有機的な自分を厭う気持ちは、日常から切り離されたかのような病室の弟への愛情に変わっていきます。
小川さんの作品には必ず、食べ物と口に対する執拗なまでの描写が出てきますが、この作品ほど食べ物を汚物へと貶めるようなグロテスク表現が頻繁に出てくる作品はないでしょう。庭に放置されたふわふわの生クリームケーキに蟻が群がっているシーンや、姉がオペ室で見たチョコレート色の卵巣を思い出しながら、目の前で夫がおいしそうに血液色のビーフシチューを食べるのを見守るシーンなどに、読む側は『食べる=生きること』という当たり前の定理に揺さぶりをかけられることになります。そのサディスティックさに、世の中は果たしてそんなに簡単であっていいのか?という小川さんの疑問が隠されているような気がします。
『揚羽蝶が壊れる時』、これは小川さんのひねくれた趣向がもろ現われている作品だと言えるでしょう。包み隠さず、ひたむきにテーマに向かって書いたということが、読んでいてひしひしと伝わってきます。それゆえ読書後は、不条理な危機感に苛まれることになります。痴呆症の祖母を養護施設に入れることになった主人公は、彼氏の子供を身ごもります。それがきっかけで一つ一つ自分の過去(アイデンティティー)を忘れて空っぽになっていく祖母と、自分とは異質な得体の知れない人間がお腹の中で着々と大きくなっていくわたしと、果たしてどちらが異常なのかと考え込み、自分の存在を疑うようになります。具体的なものを削がれてどんどん原始に戻って行く祖母の美しさと、それとは対照的に具体的なものを詰め込み女になっていく主人公のグロテスクさを読めば、アイデンティティーの確かさの上にあぐらをかいて安穏と毎日を過ごしている自分に、疑問を抱いてしまうことでしょう。
全ての物事に懐疑的になれ!小川洋子さんはきっと日本一意地悪な女流作家です。
刺激度★★☆☆☆
危険度★★★☆☆
悪意度★★★★★
グロテスク度★★★★★
対象 新婚ほやほやの専業主婦向き
ジャンル 日本の小説
僕は模造人間/島田雅彦(新潮文庫)
−笑いながら毒を吐きちらす天使のようなテロリスト− 個人的な意見で申し訳ないですが、島田雅彦さんは文筆家にしては珍しい男前です。ジュンク堂のサイン会に行けなかったことを、このわたしが二ヶ月後までひきずるほど、それはそれは甘いマスクです。初めて著書を読んだ時、島田さんの写真を見たのですが、この顔にしてあの作品かと妙に納得したことから、男前が彼の作品の相乗効果になっていると言っても差しつかえはないですね。アンチ人間、アンチ思想、アンチテクノロジー、アンチ宗教、アンチ民主主義、島田さんの作品はどれもアナーキー&デストロイです。アグレッシブなテーマでありながら、彼の作品を憎む気になれないのは、彼が読者に笑うという逃げ道をうまく残しておいてくれるからでしょう。またそんなテーマを打ち出したことさえも、最終的には笑いのネタにしてしまう自分へのシニカルさがあるからでしょう。攻撃性と自虐性、知的さと幼稚さ、格好いいテーマと回帰的な笑い、島田作品が持つその二面性は、そのまま島田さんの甘いマスクにぴったり当てはまっているような気がしてなりません。
そんな男前作家島田雅彦の作品の中で、わたしが最もトキメキを感じた本、それは『僕は模造人間』です。
自意識過剰な主人公亜久間一人が、長い年月をかけて無敵のヒーロー『模造人間』になるまでを書いた青春小説です。青春小説といってもそこは島田雅彦先生、青春小説を笑うアンチ青春小説になっていて、期待を大いに裏切ってくれます。
「僕は誰?ここはどこ?」青春小説にはもはや欠かせない定義「自我の目覚め」。健全なあるべき青春小説の主人公ならば、異性に触れ、背伸びをして大人を気取り、親と刃向かい、周りとの軋轢や対立や触れ合いによって自我を確立させていくことでしょう。しかし同じ自我の目覚めでも、亜久間一人は違います。誰かを演じ切るというひねくれたマスターベーションによって自我を確立させていきます。そのためなら、同級生の女の子にだってなりきるし、ゲイにだってなりきるし、三島由紀夫にだってなりきるし、アルピニストにだってなりきる。ドラマティックな青春を謳歌するためなら、進んで変態になって、バカになって、罠をしかけてそこに自分を陥れる。その馬鹿らしいまでの情熱は、誰にでも心当たりがあり苦々しさを感じるだけに笑えます。読む側はいとおしい思春期の自分の思い出を、茶化したジャポン語によって見事に打ち砕かれてしまいます。手前味噌、履き違え、所詮おまえらの青春時代は大袈裟に言ってもこんなものだ、うんち、おちり、ちんちん!そんな毒を吐いている著者のあの甘いマスクが目に浮かぶような、かわいい物語です。
刺激度★☆☆☆☆
危険度☆☆☆☆☆
自虐度★★★★★
オナ度★★★★★
対象 ナルシスト向き
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