地球という神秘なグラウンドで、人間の魂を健全に保つために様々な分野から呼び掛けていきます。大袈裟な題目がついていますが、要はどうでもいい事を徒然なるままに綴っています
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Location 精神世界商店INDEX文学と哲学>2003.06.28



 

サディスト、マゾヒスト、刺激ジャンキー、フリークスに贈る
「おすすめ愛毒本Vol.3」


by Naoko ジャンル日本の小説
江戸川乱歩傑作選/江戸川乱歩 (新潮文庫)


 −快楽と苦痛の地獄絵図− 
 江戸川乱歩の作品を、一度は手にして読んだことがある人は多いのではないでしょうか。また読んだことがない人でも、江戸川乱歩と言えば、本格的な探偵小説を確立した日本の代表的作家だということぐらいは、知っているでしょうし、彼が「明智小五郎」という優秀な私立探偵家の生みの親だということぐらいは、知っているでしょう。
 たいがいの探偵小説は、主人公である刑事、あるいは探偵家が、ある事件のトリックを推理し、犯人を探し当てるという筋をとります。言うまでもなく、トリックというものがなければ、それは探偵小説とは言えないし、その面白さも半減してしまいます。しかし江戸川乱歩の探偵小説は、巧妙なトリックよりも、むしろ心理的な要素、怪奇的な要素、幻想的な要素にこそ、読む面白さがあります。特に初期作品には、そういった傾向の作品が集中しています。これから、その中の一部をここで紹介したいと思います。
 『江戸川乱歩傑作選』は、大正13年から15年にかけて書いた短編のうち、代表作となる9篇、『二銭銅貨』『二癈人』『D坂の殺人事件』『心理試験』『赤い部屋』『屋根裏の散歩者』『人間椅子』『鏡地獄』『芋虫』を収録しています。『芋虫』に見られる片輪物を誇張する見世物的な身体表現や、『鏡地獄』『人間椅子』に見られる登場人物の狂気的な妄想、『赤い部屋』に見られる主人公の猟奇的な欲望は、背筋が凍るほど無気味で残虐でありながら、快楽的に甘美に描かれてあります。その独特な文体には、彼特有のフェティズムがにじみでているように思われます。もしかすると、彼はそういった物事に嗜好を持つ偏執マニアであったのかもしれません。それゆえ収録作の何篇かは、当時、検閲に通らず、伏せ字だらけで発表されたものや、結局発売を禁止され、時代の風潮が移り変わるまで、長い間日の出を見なかったという、いきさつのものがあるようです。エンテーテイメント小説という枠組み、あるいは消費文学という枠組みとして存在する、今日の探偵小説・推理小説では、ありえないことです。
 この江戸川乱歩という作家は、常に、読者の求める探偵小説と自分の本来の作風の間で、揺れ動いていたそうです。自分の書いたものが受けるかどうか、読者の反響を気にしながら書いていたそうです。受けないものは駄作として、受けたものは代表作として自分の中で位置付け、それをもとに次の作品の方向性を決めていたようです。意外な気がしませんか?『江戸川乱歩』を『日本の代表的探偵作家、青少年向き探偵作家、江戸川乱歩』たるものにしたのは、作家の力によるものではなく、読者の力によるものだったのです。初期の作品があまり有名ではなく、晩年の作品ばかりが代表作となり得たのは、そういう所以があるのです。だから、もしこの作品を読んでみようと思うなら、晩年の代表作の江戸川乱歩の作品にある程度触れてから、読んでみて下さい。そうすれば、『江戸川乱歩傑作選』の作品がいかに、一作家である前に一芸術家である江戸川乱歩を、反映しているか、分かっていただけると思います。

 刺激度★★☆☆☆
 危険度★☆☆☆☆
 偏執度★★★★☆
 意外度★★★★★
 対象 今の探偵小説を読みつくして退屈している人向き

 

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